スタートアップと発明抽出
うちの所長がずーっと昔、それこそ私がこの業界に入った頃(日韓ワールドカップの年!)から「発明抽出」っていう言葉を使っているのですが、実は私この「発明抽出」って言葉が結構好きなのです。
業界的にはおそらく、「発明発掘」って言う方が一般的と思います。実際、googleで”発明発掘”ってフレーズ検索すると76,100件ヒットするんですが、”発明抽出”だと3,900件しかヒットしません(2020年1月10日ワタナベ。調べ)。1/20程度の比率です。
で、まあ、屁理屈なんですけど、「発掘」は現にそこにあるものを掘り出すことを言うのに対し、「抽出」はコーヒー豆から(飲料としての)コーヒーを作ること、つまり(成分としてはコーヒー豆の中に)内在してはいるんだけど未だ形にはなっていないものを、(コーヒーのような有用なものに)変換するという意味があります。この、(発明者の頭の中、又は製品の中に)内在してはいるんだけど未だ形にはなっていないものを、(具体的には特許のクレームという形に)変換する作業、これが特許実務の、弁理士の醍醐味だと思うわけです。
そこでスタートアップですよ。スタートアップこそ発明抽出が必要です。
知財部がしっかりしている大企業だと、ここの部分は基本的に知財部の仕事になりますから、弁理士の仕事の醍醐味という意味では、やや物足りない部分もあります。もちろん個々の案件では、クライアントの知財担当が出してきた案をしっかりと議論します(一時期、あるクライアントの案件で知財担当が提示してきた案に対し意地になって別の観点・切り口を探すことを続けていたら「もう少しこちらの案を尊重してください…」とお叱りをいただいたこともありました)。が、基本的に大企業の案件は事務所に依頼が来る段階で提案書がある程度書かれていて、知財担当の方が「この案件のポイントはここ」と提示してくる場合が多いのでそこからのスタートになります。
でもスタートアップの場合は提案書なんて無いし、クライアントは自分ではポイントが分からない場合がほとんどです。特許を出すべきポイントがあるのか無いのかすらも分からないこともかなりあります。事業アイデアもまだ抽象的で具体化されていないこともままあります。この状態でクライアントの話を聞いて、特許になりそうな、かつ事業上意味のありそうなポイントを探すわけですから、これぞまさに発明抽出です。
もうほんとに、スタートアップこそ発明抽出が必要だなというのはビシビシ感じております。だからスタートアップ始めクライアントの皆さんにはお願いしたいのですが、是非とも発明をバッチリ完成させたりせずに、よく分からないフワフワした感じの段階で相談に来てください。そこからおいしいコーヒー抽出します。