実装と特許性のあいだ
あ社(仮称)さんの案件が佳境を迎えています。あ社さんはい社(仮称)さんからのご紹介案件で、設立からまだ日が浅いスタートアップですが売上もかなり立っていてイケイケゴーゴーな勢いのある会社です。今回は、これから始める新サービスの基本特許の取得を目指す案件です。
サービスを開始する前での特許出願の検討ですが、この時期にちゃんと特許を検討しておくのはまったく正しいです。サービスがローンチしてからでは遅いのです。さすが勢いのある会社さんは違います。
この新サービスについてはまだ開発段階で仕様が固まっていません。仕様が固まっていないということは、逆に言うと今からどうとでも好きなように開発できるということです。特許は最大20年存続しますから、現状の開発状況だけでなく将来の改良・新機能も折り込んで出願するのが望ましい姿です。この案件も、い社さんも交えて皆でアイデア出しをしました。
議論の中で色々アイデアが出ました。特許の落としどころとしては、い社の甲さんが出したアイデアが良さそうだということで議論が収束しかけたのですが、あ社のイケメン社長乙さんがイマイチ腑に落ちない様子。
「…その機能、必要ですかね…?」
浮かない顔でイケメン度が30%ダウンです。
これは特許あるあるですが、実製品に忠実にしようとすると特許を取るのが難しくなり(「それどこで進歩性主張するの」的な)、特許性を重視すると実装からかけ離れてしまい(「そんな機能、別に無くてもよいよね」的な)、バランスを取るのが難しいです。実装と特許性のせめぎ合いです。実装と特許性のあいだ。
ということで、もう一回議論。色々話を聞いていると、イケメン乙社長はどうも〇〇な点にこだわりがあるようです。そこで私がポロッと
「さっきから□□の話が何回も出てきますけど、△△を××したら◇◇できたりします?」
と言ったら甲さんすかさず
「お。それいいですね!」
乙社長も「それなら実装しそう」と納得のご様子。イケメン復活です。落としどころが見つかって議論がちゃんと着地できてよかったです。
「これワタナベ。先生が発明者になっちゃいますね」というお話もありましたが、いえいえ、それは、この場の空気が、皆さんが言わせたということで、発明者となるのは辞退しました。これも弁理士あるあるですね。ちなみアメリカではこういう場合、弁護士も発明者として処理して、その代わり譲渡手続きをしっかりやる、みたいなことをその昔聞いたことありますけど実際はどうなのかよくわかりません。
とにかくこの件は無事に落としどころが見つかって前進したのでよかったです。こういう議論は結論ももちろん大事なんですけど、当事者の納得感が重要ですから。
あ社さんはまだまだイケイケですので、次のネタもよろしくお願いします。
(オリジナル投稿:2019-09-25)
*2019-09-29 誤ってデータベースを削除してしまったため再構築。